【青森県近代文学の名品】 

 Vol.1 太宰治 愛用の万年筆
 津島美知子が、夫・太宰治への鎮魂の思いを秘めた回想記『回想の太宰治』(昭和53年)の中で、太宰の終の栖となった東京三鷹下連雀の書斎を次のように描写している。

 北向きの玄関の障子をあけて入ると、とっつきの六畳間が太宰の書斎兼客間で、左手は一間の押入と一間の床の間、右手は襖で、家族の居間の四畳半としきられていた。南は三尺の縁側で、ささやかな庭に面している。

 美知子夫人は、この書斎にまつわる遺品の中で「愛用の品」と呼べるのは、太宰が夜店で買った鋳物の灰皿とアメリカ製のエヴァーシャープの万年筆の2つだと書いている。
 エヴァーシャープの万年筆はもともと美知子夫人がアメリカ土産にもらった品であったが、いつからか太宰が使うようになった。透明な軸は途中で破損して取り替えいちいちインクをつけて書いていたが、軽く字を書く癖があった太宰は、1939(昭和14)年頃から最期まで、この万年筆1本で執筆を続けることができたという。文具に凝ることもなく、身辺に必需品だけを置いて簡素に暮らすことを好んだ太宰の数少ない愛用の品の一つである。1996(平成8)年、津島美知子氏から青森県近代文学館に寄贈された。
 このページは、青森県の広報「メルマガあおもり」掲載の文学館の連載と連動しています。ここでは「メルマガあおもり」には掲載されない資料写真を掲載しています。
太宰の愛用品 エヴァーシャープの万年筆
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