太宰治文学碑

たけはそれきり何も言はず、きちんと正座
してそのモンペの丸い膝にちゃんと両手を置き、子供
たちの走るのを熱心に見てゐる。けれども、私には何
の不満もない。まるで、もう、安心してしまつてゐる。
足を投げ出して、ぼんやり運動會を見て、胸中に一
つも思ふ事が無かつた。もう、何がどうなつてもいい
んだ、といふやうな全く無憂無風の情態である。
平和とは、こんな気持のことを言ふのであらうか。
...しばらく経つてたけは、まっすぐ運動會
を見ながら、肩に波を打たせて深い溜息をも
らした。たけも平気ではないのだな、と私にはその
時はじめてわかつた。でも、やはり黙つてゐた。

「津軽」より 太宰治

  • 中泊町小泊字砂山再会公園
  • 平成元年10月8日建立