工藤四代治詩碑

母へ

城愁

   工藤四代治

 曲 上原 隆治

柳絮紛々

遠い歌ごえの如く

城壁たかく翔び交ひり

一基の古墳 年々虧けて

春草の萌ゆ

春風蕩々

渺か歌ごえの如く

白雲遅々と径れゆく

一樹の桃花 農夫灌水の

驢馬と安息ふ

炊煙慢々

郷愁歌ごえの如く

村々處々に立ちのぼり

一頭の耕牛 夕日を浴びて

家路に帰る

江村寥々

新月歌ごえの如く

泊舟水閘に寂まり

一孤の風燈 春夜哀々と

胡弓咽ばしむ

(保定城南関外にて

昭和十八年五月作)

妻へ

春・径そして風

   蕪木邑人

   上原隆治

白い梨の花の下で

やさしくも妻は雑草をむしってゐる

なんと和やかな春だろうか

そっと妻の頬を撫でてみやうか

  ☆

春です

掻きむしりたいような心じっと押へて

むりやりにすみれの葉っぱに

接吻してみやうか

  ☆

山脈はうす桃色です

春の感情が彼女の胸に

盛り上ってきました

この径をずっと伸してゆきませう

径が伸びて空と落ち合ふころ

山の上にあなたは立ってゐるでしよう

そこから私の新しい故郷がみえるでせう

梢をゆれゆれに風が吹いてます

だから子供はひしと母に

抱きついて眠りました

黒石市温湯温泉薬師寺

  昭和57年7月30日建立
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