大町桂月文学碑


  平成12年7月建立 深浦町・北金ヶ沢字榊原・千畳敷

北金沢も過ぐれば、山脚直に海に接するやうになりて、
嬉しや、目ざしたる大戸瀬に達せり。
幅の七八十間は海に突出したる方面の長さ也。
長さの五六町は海に横はりて、陸に接する方面の長さ也。
唯これ一個の盤石、数万人を立たしむるに足れり。
二つ三つ幅一軒ばかりの割れ目ありて深く入り、
怒濤白竜となつて躍り込む。
一体に平らかにして、海面よりほんの二三尺も高し、
世にも斯ばかり偉大なる盤石あるかと驚く。
この大盤石の中に、杯池とて二三尺四方の
水溜りあるかと思へば、兜岩、鎧岩、恵比寿岩など、
小岩峰も屹立す。
少し離れて、海中に獅子岩立てり。
後の草の平丘に巌角露はれて、菌岩人を見下す。
さても造化は大戸瀬に奇工を尽しけるも哉。
前は渺々たる日本海、怒濤怒濤を追ふ。
後は唯一面の草の平丘東西南北どちら向いても山を見ず。
背景が物足りぬやうなれども、それが却つて大戸瀬の
偉大を壇にする所以也。
我れ巌を叩いて、天地の間唯汝と我とあるのみと云へば、怒濤却下に押寄せて、我狂笑うに似たり。

※紀行文「陸奥の海岸線 五 大戸瀬の奇岩」
より抜粋

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